第 71 話

カムイ流武術伝       第 71 話
ミレディは、たぶん……
水衣ノ神の水の動きと、
私の体の動きの法則を
見出したから、
幻覚が通用しなかったんだ。
でも先生がやった
霧の幻覚を見せる技は、
辺りが真っ白になるから、
肉体の動きとの規則性を
見つけるのは
不可能に近いはず……
あの技を習得すれば、
ミレディにも
対抗できる。
でも……
全然うまくいかない……
なんで~?
水衣ノ神は、氣のフェイントを連続することで、相手に幻覚を見せる技。
氣を操作することで様々な方向に移動したと相手に思わせる。これが氣のフェイント。
フェイントをより大きくすれば、水の幻覚は、より大きくなる。
でも、霧のような幻覚にはならないんだよな……
氣を操作をする以外に何か必要なことがあるのかな?
心の複雑性
……。
心の複雑性……
なぜか、先生達がいなくなって以来、時々この言葉が頭をよぎる。
どういうことだろう。
確か、心が乱れると、氣は複雑に変化してしまう。
氣が複雑に変化してしまうと、氣のコントロールがうまくできなくなる。そうなると、水衣ノ神を含む色んな技がうまく使えなくなる。
だから今までも心を落ち着かせるために、瞑想をたくさんやってきた。先生は心が無になることが理想的な状態と言っていた。
でも私は……考え事をしながらでも
水衣ノ神を使える。これって無心にはなってないよね?
ん?
なんか訳がわからなくなってきたぞ……
……。 
誰か来た。この氣は……
そうか、今日からだった。
はぁ…はぁ… か…楓ちゃんは、いつもこんな山道を登ってるのね。
 おぶろうか?
大丈夫。もう少しで 着くはずだから。 
あ!立花さん。久しぶりだね。 今日はよろしく。
あかねちゃん、 立花さんがいるよ。もう一息だ。
立花さん久しぶり~。
修行の邪魔しちゃってごめんね~。
いえ……
楓ちゃん、ごめんね。修行を見てほしいって突然連絡しちゃって。
あ…いや……気にしないでください。
先生が残したメモに私が修行を見るようにって書いてあったんですよね?
そうなんだよ。日向君のメモの通りに修行を進めてたんだけど、俺達だけじゃ難しいのが出てきてさ。
そしたら、立花さんを頼るようにって書いてあったんだよ。
でも楓ちゃんが元気そうで良かったわ。日向さん達のことは、本当に残念だけど。
実は日向さん達の件を聞いた後、楓ちゃんの家に伺ったんだけど……
お母様から、楓ちゃんにはもう武人とは関わらせたくないって言われちゃって……
お母さんめ……
だから連絡しづらかったの。私も武人の関係者だから。やっぱり、まずかったかしら……
大丈夫です!
あ……でも私がうまく指導できるかはあまり自信ないですけど。
立花さんなら大丈夫だと思うけど、修行の内容を見てもらえる?
あ……はい。
氣の操作の修行なんだけど、俺達がちゃんと氣を操作できてるか熟練者に見てもらうのが必須みたいなんだ。
なるほど。
俺達も氣は読めるけど、細かい変化まではわからないからね。そういう訳で、正確に氣が読める立花さんの力が必要ってことだね。
まぁ、君も自分の修行があるだろうからね。無理に付き合わなくても大丈夫だよ。
しかしなんだ……
この子で……
大丈夫!?
社長は藤堂文野くらい強いって言ってたけど、ありえないだろ!!
日向君はなぜこの子を弟子に?
日向君ロリコン疑惑。
……。
何か失礼なこと考えてるな~?氣を読めばわかるんだよ!
あ……修行内容見ましたが、私でも教えられそうです。
本当!?良かったよ。
それとさ、修行の前に一つお願いがあるんだけどさ……
はい……
俺達4人と手合わせしてもらえるかい?
何言ってんだよ!怪我したらどうすんだよッ!!
俺達は保険入ってるし、休職しても給料は払うよ。
違うわよ!楓ちゃんがよッ!!
え!?そっちの心配してたの?
それは大丈夫。
たぶん、全く相手にならないから。
あッ!さすがに4人同時はキツイ?
いえ、平気です
じゃあ、俺達と手合わせしてくれるんだね?
はい。
先生がいなくて組手の相手もいませんでしたし、私にとっても勉強になります。
そう言ってくれて嬉しいよ。
肌で感じたかったんだよ。
君らがどれほど遠い存在かを……
おにいちゃん。
お父さんが……
今……
うん……わかってる。
ごめんねお兄ちゃん。
お母さんと私は手を尽くしたけど、お父さんを救えなかった。
謝るのは僕の方だ。
こんな時、菫さんと春佳に頼ることしかできない……
ねぇ……私達これからどうしよう?
春佳は医者になりなよ。ちゃんと大学に行ってさ。
うん……そうだね。
お兄ちゃんはどうするの?
弟子を探すよ。師匠と約束したから。
お……お父さんには悪いけど、もう武の世界から離れよう!
弟子も探さないでさ、普通に暮らそうよ。
私怖いよ……お兄ちゃんもお父さんみたく闘って死んじゃうのが…
……
お……お兄ちゃん ?
カムイ流 剛の極み !!
なッ…何ッ !?
ちょ……
な…なに……やってんの ?
……
意味ないよな……こんなことできても。
「氣場に存在する全ての力の支配」これがカムイ流の極意。
だけど僕はそれができなかった。
師匠の期待に応えられなかったんだ。
これで
弟子を育てることもできなかったら……
僕は……
本当にクズになってしまう……
ん……
春佳……
お兄ちゃん!
よかった。目が覚めて。
ここは?
「愛と正義の武人団」の総本山近くにある民家。ほら、あれがヒマラヤ山脈だって。
アマルさんがこの家は自由に使っていいって。
楓さんは?
……
置いてきちゃった。ごめんね……
春佳、大学は?
辞めるしかないよ。いつ日本に戻れるかわからないし。
それじゃあ医師免許は?
仕方ないよ。
僕は……
楓さんを置き去りにして、春佳も医者にできなかったのか。
!
お兄ちゃん!
ぼ…僕は……
師匠との約束を…ま…守ることが…でき……なかったんだ……
あとがき 
読んでくださり、ありがとうございます。  今回の話で出てきた「愛と正義の武人団」の総本山は ヒマラヤ山脈付近の南アジアのどこかにあります。 南アジアにはインドやネパールなどがありますね。 総本山がある国自体は架空の国ですが。  ちなみに個人的な趣味の話をしますと、 異国の民族衣装みたいなエキゾチックな服装が 好きです。  んじゃ、今後もよろしくお願いします。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする